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ヨットの事を考える評議会


by Takatsuki_K
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外部の援助

ヨットレース中の「外部の援助」について。レース中に書くとナンなので、沖縄-東海レースが完全に終わった今がチャンスかなと思い、書いてみる。

外部の援助とは何か?
レース中、「漁船をチャーターして水や食料を運んで貰い海上で受け取る」、なんてのがダメなのは、まあ誰でも「そーだ、そーだ」ということになる。

これはセーリング競技規則によってハッキリと定められている。

RRS 規則41 外部の援助
艇は、以下を除き、外部からの援助を受けてはならない。
(a) 病気の、または負傷している乗員に対する援助。
(b) 衝突後、離れる為に相手艇の乗員から受ける援助。
(c) すべての艇が自由に得られる情報形態としての援助。
(b)  同じレースに参加している他艇など、利害のない情報源からの、求めてもいないのに与えられた情報。


たとえば、「灯台の灯りで自艇の位置を知る」というのも、考えようによっては「灯台の灯り」という外部の援助を受けたことになるわけだけれど、上記RRS41(c)で特別に許されている外部の援助ということになる。「GPSの電波を受信して位置を知る」なんてのもこれ。「すべての艇が自由に得られる情報形態」だからオーケーということになる。

ここでは通信(情報伝達形態)そのものについてはなんら記されているわけではない。しかし、通信技術の発達で、この条文だけでは「どーなんだろ?」と思うものも多くなっている。

そこで、RRSにある「付則K 公示ガイド」の18、あるいは、「付則L 帆走指示書ガイド」の27に、推奨される文言が掲載されている。
これは、「帆走指示書にこのように記載しておくといいですよ」という意味だ。

27 無線通信
緊急の場合を除き、艇は、レース中無線送信も、すべての艇が利用できない無線通信の受信もしてはならない。またこの制限は、携帯電話にも適用する。

「ラジオで天気予報を聞くのはいい」わけだが、ラジオの天気予報なんかではろくな情報が得られないうえに放送時間が決まっていて、ヨットの上では全く不十分。携帯電話の177天気予報の方がずっと有益だけれど、帆走指示書にこのように書かれていたら、それはダメということになる。

「気象ファクスを受信して天気図をとる」のは「すべての艇が利用できる無線通信の受信」だからオーケーだけど、インターネットから天気図をとったらどうなのか?
インターネットというのは、こちらから「サーバにあるXXXのファイルが見たい」という情報を送信するわけだから、この条文からすると天気図だろうがなんだろうが、インターネットへの接続は一切不可となる。

ちなみにRRSの2005-2008では、上記「無線送信」の部分が「無線通信」という和訳になっていた。英文は「radio transmissions」なので、たしかに2009-2012の「無線送信」が正しい。
JSAFルール委員会も御苦労されている様子デス。



さて、この部分はあくまでも「帆走指示書ガイド」なわけで、レースによって好きなように書き変えればいい。沖縄-東海レースの帆走指示書では以下のように書かれていた。

19. ロールコール
19.1 「沖縄-東海ヨットレース通信要領」によりロールコールを行う。
19.2 参加艇は、フィニッシュするまで、リタイアした艇は最初の港に入港するまで、ロールコールにより毎回位置情報の報告を確立しなければならない。
19.3 レース本部からの呼び出しに応答できる状態を保たなければならない。
19.4 定時から4時間以内にロールコールを確立できない場合にはペナルティーを課せられる。


20. 無線通信
20.1 レース中に、インターネット、電話、気象FAXなどでの気象情報の収集を認める。
20.1.1 その対象は、無料であること、一般に公開され誰でもがアクセスできること、年間を通じて常時配信していることを満たしたものに限る。上記を満たさない、コース指示、気象情報・予報に関することはいかなる方法でも入手してはならない。
20.1.2 このレースの http://okinawa.toscrace.jp/ とそこから記載されるリンク先(1次のみ)、レース委員会が契約した気象情報サイトの情報はいかなる方法でも入手したりアクセスしても良い。


この文面から察するに、

以下を除いて、艇は、レース中無線送信も、すべての艇が利用できない無線通信の受信もしてはならない。
(a) 緊急の場合
(b) 「沖縄-東海ヨットレース通信要領」で定められたロールコール
(c) 沖縄-東海ヨットレースの公式ホームページとその一次リンク先
(d) 以下の条件を満たす気象情報
  ・無料で、一般公開されている
  ・年間を通じて常時配信している
  ・誰でもがアクセスできる


と、いいたいんじゃなかろうか? と考えられる。
ならば、
今回大活躍した「OC Trackerの航跡を見る」というのは、公式ホームページからの一次リンクなのでオーケー。でも、インターネットでのメイル送受信はもちろん、Twitterのようなサービスも利用は不可、ということになる。ブログの類も、それが年間を通じて気象情報を配信しているものでなければ不可のようだ。

しかし、そのあたり、上記帆走指示書の文面だとちと不明瞭。そこで、スタート前の艇長会議でなんらかの質疑応答があったらしい。
ここんとこ、ハッキリさせるのは重要なので、「イイゾイイゾ」と思ったんだけど、その詳細は分からないし、正式に帆走指示書の変更があったという掲示もされていないのでここではなんともいえない。
ハッキリしたのかどうか不明なので「ヤバイヨヤバイヨ」とも思う。

ここんとこ──つまり、レースを盛り上げるためには、Twitterなどでの情報発信はプラスのツールだと思うんだけど、「外部の援助」というマイナスツール面を考慮していかに明文化するか、これはみんなで知恵を絞らねば。
……と思うわけです。

そこで考えられる今後の指針としては、

1:-----------
レース中もインターネットへの接続は認める
でも、
外部の援助は不可、とする


(問題点)
どこまでが外部の援助にあたるのかを明文化しにくく、本人も意図しないうちに外部の援助を受けてしまう可能性がある。
たとえば、Twitterに書き込みをするということはTwitterの書き込みを読むということでもあるので、そこで、「今夜中に前線が通過するらしい」という書き込みを読めば、それは外部の援助を受けたことになる。

「レース中、機走してはいけない」という基準は単純だから競技者のモラルで厳守できるが、通信で得られる「外部の援助」はかなり曖昧な概念なので判断が難しい。そこで、帆走指示書ガイドでは上記のような文面で通信そのものを規制している。


2:----------
レース中もインターネットへの接続は認める
なおかつ、
インターネットから得る外部の援助は認める


(問題点)
気象解析会社や戦略解析チームと契約して情報を得ることも可能であり、となると、資金のあるチームとそうでないチームでの公平を保てない。

レースのレベルによってはこのあたりが大きな問題になるはず。
ここでの「レベル」とは、ヨットがうまいかヘタかというのとはちょっと異なり、勝利にどこまでこだわる人が参加しているか? という意味の「レベル」で、ラリー・エリソンとかが出ていたら、専用の気象衛星とか打ち上げそうでしょ。

でも、今の日本のヨットレースだったら、「インターネットを駆使して情報を得る」といっても、そうそう大げさな事はできないんじゃなかろうか? とも思うし。
と、その前に、走るヨットの上からインターネット接続するにはどうしたらいいのか? そのコストは? ってのも、あるかも。

どうなんでしょうねぇ。そこんとこ。
議論する余地あるのでは?


以上、今回は問題提起です。
by Takatsuki_K | 2010-05-11 08:41 | 無線を考える