ヨットの事を考える評議会


by Takatsuki_K
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ちょっと前に『KAZI』 に書いた原稿を掲載しておきます。

まずは第1話---------------------

IMSはもう古い。ORCクラブは不公平。時代はIRCだ。……とかまびすしい昨今の日本外洋レース界。レースの楽しみ方は人それぞれなので意見はいろいろあるだろうが、とりあえず、レーティングの過去、現在、未来をさぐってみたい。


レーティングの始まり

 なんでもアリの着順勝負から始ったヨットレースも、「せめて全長によってクラス分けしようや」のレベルを経て「いやいや、水線長や排水量、セール面積だって重要だぞ」という事になり、レーティングクラスが作られた。
 レーティングとは、そのヨットの“格付け”、“評価”であり、それぞれのレーティングクラス内で着順勝負が行われるようになった。
 すると今度は「ハンディキャップを決めて勝負しようではないか」とも考えるようになる。艇毎のレーティングからハンディキャップを導いて所要時間を修正しレース順位を算出するというものだ。
 よって、大きな船と小さな船。軽い船と重い船。さまざまなヨット間で勝負を楽しめるようになったというわけだ。


ハンディキャップの混沌

 こうして生まれたハンディキャップシステムだが、そのハンディキャップ値が本来の性能を正しく評価しているのか──ハンディキャップの正当性について、不満も出てくる。
 楽しく公平なレースを行う為に、ハンデの付け方に様々な工夫がこらされて来た訳だが、ヨットの性能というものはそうそう単純なものではない。試行錯誤を繰り返しながらも、混沌の時代が長く続いているというのが実情だ。
 これはけして日本だけに限った事ではないのだが、他国で試されたいくつかの試み──オーナーヘルムでのワンデザインであるとかボックスルール。あるいはレベルレースなどを試す余裕もないまま、長く暗中模索というか、無為無策というか、そんな状態が続いており、これがレース熱衰退の原因にもなっていたと言っても良いのかもしれない。
 さていったい、どうしたらいいのか。
 まずはこれまでの変遷をまとめてみようということで、レーティングルールの歴史とそれぞれのレーティングルールの特徴をまとめて原稿に起こしてみた。これまで存在したレーティングルールの様々な問題点を一つ一つ挙げていかないと、現在の混沌が理解できないし解決の糸口はつかめないと考えたからだ。
 ところが、IORの導入あたりから始めても、その変遷には様々な要素があって、文字量はかなり多いものになってしまった。とてもではないが、一度には掲載しきれない。
 そこで、細かい事は次号から掲載していくとして、今回はそこから見えてきた問題点を先に挙げておくことにしたい。


何が求められているのか

 まず第一に、オーナーはいったいどんなヨットレースをしたいのか? ヨットに対するスタンスは人それぞれで、嗜好は異なる。技術レベルも、懐具合も様々なわけで、ヨットレースとレーティングルールに望む要素もそれぞれ異なってくるだろう。
 で、それを、レーティングルールを管理する側やレースを主催し運営する側がどこまで把握しているのだろうか。そもそも、レースに参加するオーナー自身が、どこまで自分自身の指向を把握しているのだろうか
 なにをもってグランプリとするのか。グランプリと非グランプリの境目はどこにあるのか。自分のチームはどこに位置していて、最終的にはなにを目指しているのか。
 これらが、極めて曖昧である。
 ここらを把握してそれを前提にしないと、運営側ではレーティングシステム普及に向けた適切な戦略を練れないし、ユーザー側もその場限りの要望しか言えない事になる。


ルールチートは悪なのか

 IORが登場したのが1969年の話。以降90年代初頭まで、世界のグランプリレースはIORで行われてきた。
 レースが過熱するにしたがってルールチートの問題が生じる。ルールチートとは、ルールの盲点をついて実性能の割に低いレーティングを得ようとする行為で、そのレースが盛り上がり参加者が勝負に執着すればするほど、こういう人が出てきても不思議ではない。
 ルールの方もこれを放置せず、ルール改正を行う。
 そのいたちごっこが続いた結果、カーボンやチタンといった希少な材料を使った高価な船が、2年もすれば二束三文になってしまうという現実に陥った。
 「これにはついていけない」という人が増えてきた頃出現したのが、現在も日本のグランプリルールとして採用されているIMSだ。コンピューターを始めとした新しいテクノロジーが生んだハンディキャップルールであり、健全な外洋ヨットとなるように材質や内装のレギュレーションも厳しく定められた。
 IMS艇は、同じサイズのIOR艇に比べて速く、外洋耐候性に長けておりその上安価だった。そんなIMSの登場で、IORはジュラ紀の地球を闊歩していた恐竜のように、急速に絶滅していった。
 この世はIMS全盛かと思われたが、そのIMSを支えている科学力も万能ではなかった。じきにIORと同じようなルールチートのいたちごっこが繰り広げられるようになってしまった。
 さて、ここで改めて考える。ヨットレースに於ける公平性とは、いったいどういったものなのだろうか。
 そもそもレーティングルールが完璧にその艇の実性能を数値で表すことができたらどうなるか。最新の艇にはそれなりに、船齢40年の木造艇にもそれなりのハンディキャップがついたら、船の性能差は完全にハンデで補正され、あとは乗り手の腕次第で勝負がつくことになる。タイトル奪取に向けて新艇を作る必要もない。
 これは、「X○△※ヨット・フェスティバル──豪華参加賞アリ!!」みたいなレースなら理想だろうが、グランプリの世界ではどんなもんだろうか。
 ルールチートの余地があり、ルールチートも勝負の一つと考える事ができるからこそ、ハンディキャップクラスがグランプリたりえているとも考えられる。新艇の方が有利であるというちょっとした不公平感こそが、ハンディキャップで競うグランプリクラス発展の為のエネルギー源と言えるのかもしれないのだ。


非グランプリの世界

 一方、非グランプリの世界はどうか?
 世の中グランプリ指向の人ばかりではない。実際にはもっと気楽にレースを楽しみたいという人が大半なのだ。
 科学的にヨットの性能を把握するという意味で、IMSの正確性は現時点では右にでるものはない。完璧では無いだけの話だ。
 ところがその正確さゆえ、IMSの計測はたいへん厳格なもので、手間も暇もお金もかかる。これを大幅に簡略化し、普及に役立たせようというのがORCクラブ(以下ORCC)だ。
 我が国では、IMSの採用に合わせて、それまであった国産の非グランプリ用ルールであるCRに変わってORCCが採用された。
 簡易版なので、ハンデ値の正確性はIMSとは比べ物にならない。が、簡易版なのだからしょうがない。ORCCの問題点は、証書発行のためのアプローチに様々なものがあるという事だ。
 そもそもIMSの特徴は、船体の三次元的曲面を専用の計測機械を用いて測り、ハルデータとして数字に置き換えて完璧に把握するという部分だ。これが、計測点を基準として測るというIORを含むこれまでの計測方法から革新的に変化した部分だ。
 IMSの普及版であるORCCでは、このハルデーターをいかにして計測無しで得るかがキモになる。
 そこで、
(1)IMSの計測を受けた艇はその数値を使ってORCCのハンデ値を再計算。
(2)ハルデータは既存の同型艇のデータをスタンダードハルデータとして使い、その他のデータは計測する
(3)ハルデータはスタンダードで、その他の数値も自己申告
(4)デザイナーからハルデータに相当するデータを提出してもらう
(5)似たような船型のモデルデータから類推する

と、様々なアプローチから、証書が発行される。
 (1)が一番正確なデータであり、下に行くに連れて根拠が薄くなっていく。
どれが一番お徳な(ハンデが低く出る)のかは分からない訳だが、どうやらここに不公平感を生む隙があるようだ。
 ORCCはその運用にかなりの幅を持たせている。クルーウエイトの問題も含め、簡易ハンディキャップシステムとしてのORCCに対し、どこまでの簡易さを求め、それに伴う精度劣化をどこまで許容するのか。改めて考え、運用を見直す事によって、ORCCに対する不満はかなり払拭できるのかもしれない。


IRCはグランプリたりえるか

 IORに続いてIMSにも不満の声が出始めた頃、RORCとUNCLによってIR2000という新たなレーティングルールが提唱された。IR2000には、グランプリ指向のIRMと普及版のIRCがある。IRMはさておき、IRCの方はその後広く世界的に普及してきたようだ。
 そんな世界の流れにちょっと取り残されていた感のあった我が国だが、いよいよIRCが導入されようとしている。それを受けて、表題の通り“かまびすしい”状況になっているわけだ。
 IRCを一言でいえば、国際的なPHRFルールと考えてよさそうだ。
 計測を必要とする“エンドースド”と、自己申告の“スタンダード”の2つに分かれているが、エンドースドでも計測内容は、
○全長
○前後のオーバーハング(つまり水線長が出る)
○最大幅
○重量
○喫水
○リグの寸法
○セール
と、IORやIMSと比べると極端に少なく、その上、その数値からどうやってハンディキャップを求めるかは公開されていない。
 という事は、このレーティングを取り仕切る技術委員会の胸先三寸という事になるが、そのさじ加減が「なかなか良い按配である」とユーザーから評価されているからこそ、世界で普及したものと思われる。
 とはいえ、ルールが非公開のブラックボックスで、一度出されたレーティングが翌年まったく変わってしまうという事もあり得るわけで、これではグランプリルールにはなり得ない。つまりIMSの代わりにはならなそうだ。


グランプリと非グランプリ

 さてここで、はたして我が国のレースフリートは、グランプリと非グランプリにキッチリと二分されているのだろうか、という事を考えてみたい。
 そもそも非グランプリから上を目指す気はまったく無いという層のセーラーは、レーティング問題にもさほど興味はないと思われる。ヨットクラブの親分がエイヤと山勘で決めるローカルPHRFで十分なはずだ。
 今IRCに興味を持ち、あるいはORCCやIMSに不満を持っているのは、グランプリを目指す準グランプリ層や、非グランプリ層の中でも準グランプリを目指す層のセーラーだろう。
 このあたりのセーラーは嗜好にも幅が広く、ルールを運営する側でも対応は難しい。なにより、本人でさえも自分の指向が実はよく分かっていなかったりする。
 またこれは、ハンディキャップ精度の問題以外に、グランプリルールとの整合性の問題も関係してくる。ORCCの先にはIMSがあるが、IRCの先にIMSは繋がるのか。
 そこで、現在我が国で唯一のグランプリルールであるIMSとの互換性が高く既に普及しているORCCも残しIMSと共に存続させ、新たにIRCも採用するという形になるようだ。
 IRCが新たに採用されることで、ハンディキャップシステムを運用する側、レースの主催者、レースの参加者、それぞれがどのような選択をしていくのか。それによってヨットレースのありようは大きく変わっていきそうだ。だからこそ、今、各ハンディキャップシステムの利点と欠点を良く知る必要がある。

 第1話の締めとして、ポイントをまとめてみよう。
-----------------------------
○グランプリと非グランプリの境界線は曖昧である
○非グランプリ層は、今後もずっと非グランプリでありつづけるのか?
○準グランプリ層はレーティングにどの程度の精度を求め、それに対してどの程度の手間とお金をかける気があるのか?
○グランプリ層といえども、グランプリレースだけに出場するわけではない
○実際、グランプリレースの数は少ない
○そもそも公平なハンディキャップとは?
○システムの仕組みばかりか、運用の問題でもある
○これまでIMS下のレース運営は正しく行われていたか?
○「規格の範囲内でより速い船を造る」のと「艇速の割に低いレーティングを持つ船を造る」のは同じ事なのか?
○何故日本ではワンデザインクラスが確立されないのか?
○IRCはグランプリルールにはならない。が、準グランプリのまねごと位はできるのか?
○IRCは日本にしか存在しない艇種でも正当に評価し得るのか
○IRCでも、有利な船、不利な船、は存在するのか?
○IRCでの勝敗とIMSでの勝敗は一致しない? としたら、その理由はIMSにあるのか、IRCにあるのか。
○ORCCはIMSの普及の為にある
○ORCCの運用には幅がある
○ORCCの精度をもっと上げられないか
○ORCCの利用者はどれだけルールを熟知しているか
○ORCCとIRC。自艇に有利な方でエントリーする……はアリか?
○レース熱が冷めたので、ルールも進化しなかったのか? ルールが進化していないのでレースが盛り上がらなかったのか?
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# by Takatsuki_K | 2008-04-12 15:59 | 過去記事