ヨットの事を考える評議会


by Takatsuki_K
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ヨットレースにおける外部の援助問題。
とりわけ、外洋レースでの無線通信時には、それが外部の援助にあたるのか否か、判断が難しいケースが多い。
無線通信の手段が多様化しているので、なんとか明文化して主催者側と参加者側でコンセンサス得ないと、せっかくの通信インフラを活かすことができない。

……てなことをこれまで書いてきました。

「外部の援助」
「外部の援助 じゃ、どーすればいいのか?」
「外部の援助 安全の為ならOK?」
「パールレース 2011」
「無線通信と外部の援助 シドニーホバート2010の場合」
「無線通信と外部の援助 トランパックレース2011の場合」

さてここで、昨年末に行われたシドニーホバートレースでは、まさにこの「無線通信に関わる外部の援助」でプロテストが出ました。
結果は却下に終わった訳ですが、どうも腑に落ちない。

経緯をまとめてみます。

……という前に、抗議書が見当たらないんですけど。

シドニーホバートレースの公式ホームページにでているこれ、
は判決ですよね。

プロテストをしたのはレース委員会。
プロテストされたのは、ファーストホームの〈INVESTEC LOYAL〉。
全長100ftのマキシです。

スタートから一夜明けた2011年12月27日 0630時。Merimbulaの南30マイルということですから、コース中盤ちょっと手前ですね。〈INVESTEC LOYAL〉がテレビ局のヘリからインタビューを受けます。
インタビューも終わりにさしかかったころ、クルーの一人がヘリのクルーに、ライバル艇〈 WILD OATS XI 〉は、メインセールじゃなくてストーム・トライスルを揚げているか? と質問します。

ヘリのクルーは、ヨットのことは詳しく無いので分からない、と答えます。ふーん、ヨットレースの取材クルーがヨットのこと詳しく無いなんて、オーストラリアでもあるんですね。
いや、これは「答えちゃいかん」と思ってトボケたのか?

質問をした方は〈INVESTEC LOYAL〉のクルーといってもタクティシャンでセールメーカーの社長。その名をMichael Coxonという。
ここであきらめれば良かったのに、Coxon社長はあきらめずに、じゃあ、セールの色は何色だ? と聞き返す。
ヘリの取材クルーは、視界内にいる〈 WILD OATS XI 〉のセールはグレイで、鮮やかな色では無い、と答えます。

ストームトライスルは、ISAF-OSRで、蛍光色のピンクもしくはオレンジ色または黄色と決まっているわけで、そうじゃないってことはメインセールが揚がっているということ。
〈INVESTEC LOYAL〉側では、
‘copy that, that’s great news.’
と答えた。

ここまでが、「FACTS FOUND」事実認定ってことで、レース委員会はこれのどの部分がどの規則に違反していると抗議したのか、抗議書が無いのでが分からないのですが、

続く「CONCLUSIONS AND RULES THAT APPLY」が結論と適用規則。
正確には英文を読んでいただくとして、ざっと訳せば、

ヘリの取材クルーに質問したCoxon社長は〈 WILD OATS XI 〉のメインセールを作った(実際には売った?)本人で、かなり軽量に作ったので、壊れてないかどうか心配だっただけ。
だからRRSの規則41(外部の援助)には違反していない。

また、これはCoxon社長の「commercial concerns」ですから「商売上の関心事」ですか……、だから、これは帆走指示書で禁止されている「race information」ではない。

よって、判決は、「抗議の棄却」である、と。


うーむ、わからん。

まだレースの中盤で、ファーストホーム争いしているライバル艇のメインセールが壊れていることが分かれば、その後はなるべく船を壊さないように走ればいいわけで。メインセールがまだ健在なら、こちらも多少のリスクを冒しながらも全力疾走しなければならないわけで。

ここで、ライバル艇のメインセールが壊れているかいないか、これはかなり重要な「race information」であり、その情報をヘリの取材クルーから聞くという行為は、明らかな外部の援助だと思うんだけど。

そう思うから、レース委員会は抗議したんだろうし。

ところがそれをジュリーが簡単に却下してしまったら、この先、参加艇側でも「無線通信に関わる外部の援助」に対してどう規則を守ればいいのか、ますます分からなくなりますね。

「レース中に機走してはいけない」という規則はハッキリしているので、みんな守るわけで。
良いか悪いかよく分からないような規則を自己判断で守るのは難しい。他のスポーツと違って、その場でアウトセーフの判定してもらえないんだから。
自分で、「いや、これは商売上の情報なんだよね」って言いきかせればオッケーなのか。
で、事後にジュリーが裁定することになるのか。

〈INVESTEC LOYAL〉のナビゲーターは本職が弁護士で、オーナーに代わって審問に出席したそうで、ジュリーも本職の弁護士にかかったら形無しか。
なんだか「橋下弁護士にやりこめられる評論家」のイメージ。
まあ確かに、ジュリーの側は、マークルームでどうする? なんてケースは勉強しているんだろうけど、商売上の情報だとどうなのかなんて考えてなかっただろうし。いや、考えていてもらわないと困る。

そして、今回のケースは、抗議したのがレース委員会であるというのも興味深いところです。

抗議の内容(どの規則に違反したと主張しているのか)が分からないのでこれは想像ですが、判決に帆走指示書の49.1も出てくるので、おそらく帆走指示書49.1に違反して「race infomation」を受けてこれが規則41にも違反する、として抗議を出したんだと思われます。

帆走指示書を作ったのはレース委員会なわけで、その帆走指示書にある「race infomation」というのはどういう意味なのか?
レース委員会は今回の交信内容がこれにあたると判断したから抗議を出したわけで。つまり、「ライバル艇のセールの状態を聞く」とういう内容の交信をしてはならないというポリシーの元にこの帆走指示書を作ったわけで。

対してジュリーは、レースに関わる情報でも「個人の商売上の関心事」が優先するという判断をしてしまったわけで。

今後、レース委員会としては、帆走指示書に「あらゆる理由があろうとも、race infomationを交信してはならない」みたいな文章にしなければならないということになりますかね。

ここのところ、ライバル艇側から抗議が出たというケースとは違う問題を含んでもいますね。


今回の事象で、〈INVESTEC LOYAL〉が失格かファーストホームかというのは、実は当事者以外にはたいした問題ではなく、今後のレースではどう判断すればいいのかということが大きな問題なわけです。
そしてこれは、我が国のヨット界でも同様に重要なことだと思われます。

曖昧にしていると、いつかこうして大きな事象となってしまう。
その前にできる範囲で対処しておかないと。
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# by Takatsuki_K | 2012-01-10 14:08 | ヨットレースを考える